すべてはチャボのために・・・
両親と紅葉を観に行きました。
車で20分ほどのところにある公園です。
着くなり父親は車のトランクから虫取り網を取り出しました。
そして、さも当然のように私に渡しました。
「なんで?」
なんで虫取り網を私に渡すの?
父は短く答えました。
「バッタを狩る」
初冬のこの時期にバッタを探すと言います。
しかも、「取る」ではなく「狩る」です。
私は「あぁ・・・いるかな」と深く追求せずに虫取り網を持ち直しました。
今朝、ガーデニングをしていた母がバッタを捕まえました。
「どうする?!どうする?!」
と興奮気味にリビングに上がってきます。
私も「え?!バッタいたの?!すごい!!」
と興奮し、
「外に出そう!外で食べさそう!」
と続けます。
母がそれに従い外に出ます。
私はチャボを母の近くに持っていき、放しました。
母が手の中にいたバッタを放します。
チャボはすばやくバッタをくちばしで捕まえ、地面に2,3度叩きつけます。
バシッバシッと音が聞こえてきそうです。
そして、バッタを頭の方から丸のみしました。
そうです。
チャボはバッタを食べます。
それが判明したのは今年の初秋でした。
庭を探索していたチャボが、突如走り出しました。
短い脚を一生懸命伸ばして、何かを追いかけています。
その何かがわかったのは、チャボがくちばしでつついていたものが見えたときです。
コオロギでした。
小さいコオロギを何度かくわえては放し、丸のみしました。
一部始終を見ていた母は驚きました。
チャボは虫を食べる。
この事実は、我が家にショックと興奮をもたらしました。
後に本で調べたところ、イナゴを食べさせると滋養にいいとありました。
ただのえさではなく、栄養としていい。
チャボを溺愛する父はこの情報に食いつきました。
イナゴを食べる。コオロギを食べる。ならば当然バッタも食べるだろうと、私たちは推理しました。
しかし、悲しいことにそれを知ったときにはコオロギもバッタもほとんどいなくなっていました。
来年に期待しよう。
そうまとめて冬を迎えるはずでした。
そこに今朝のバッタが現れました。
父は考えました。
「公園に行けばまだバッタがいるだろう。チャボのために捕まえてこよう」
紅葉を観に行くと母と私を誘いだし、バッタ狩りをする。
すべてはチャボのためです。
公園の奥まったところに行き、11月の下旬にどうせバッタなんていないだろうと思って私は適当に網を回しました。
父は私の手から網を奪い取り、熱心に網を振り回します。
いやいや、取れないだろう。
冷めた目で見ていた私の耳に母の叫びのような声が入りました。
「いた!いたよ!速く網持ってきて!!」
母のもとに駆け付けると、確かに緑色のバッタがいました。
本当にいた!!
父は一生懸命網で取ろうとしますが、なかなかうまくいきません。
見かねた母が
「手で取ればいいでしょ!」
と素早く掴み、父が持っていた網にバッタを入れました。
母、無敵。
取れた喜びがすぐに「ここにはバッタがいる」という実感になります。
両親共にうろうろとバッタを探します。
いました。
今度は10cmはあろうかという大物です。
さすがに母も簡単には捕まえられず、父が網で追いかけます。
虫が苦手な私は、バッタが逃げるたびに「きゃー!」と悲鳴を上げます。
バッタを追いかける大人3人。
奇怪な光景です。
周りに誰もいなくてよかった。
苦心して捕まえたバッタを誇らしげに見る父。
「これは大きいな」
あわれ、バッタよ
チャボのためにえさを求めている酔狂な人間に追い回され
あわれ、バッタよ
捕まえられたら最後、行きつく先はチャボの胃の中。
網に閉じ込め、次なるバッタを求めて場所を移動します。
結局5匹捕まえることができました。
こんなにいるとは思わなかった。
父は満足気にバッタの入った網のくちを絞り、大事そうに車のトランクに仕舞いました。
すべてはチャボのために・・・