人生は深く考えてはいけません
私は洗面所で歯を磨いていた。
母が入ってきた。
おならをした。
私は「キッ」と母を睨んだ。
母は「ああああ!ごめんなさい!出て行くわね!出て行くからね!」
と心のこもっていない謝罪をして洗面所を去ろうとした。
「臭いを残して自分だけ逃げる気かっ!!」
歯磨き粉で口をもごもごさせながら私は糾弾した。
母は爆笑しながら洗面所から離れて行った。
母が戻ってくることはなかった。
母がフルートのコンサートに突然誘われた。
急だったので母はおたおたしていた。
「ねぇ、どうしよう。着ていく服がないの」
「え・・・この前新しく服買ってたじゃん。それ着てけばいいじゃん」
「だってあれ家用よ?着てけないじゃない」
「はぁ?こんなに服があるのに家用って何?!っていうか、家用ばっか買ってるからこういうときに着ていく服がないんじゃん!」
「安かったのよ!安いのは買っていいでしょ!」
新人OLみたいな「こんなにクローゼットに服が詰まっているのに着ていく服がない問題」を抱えた母は、なんとかコンサートに合いそうな服を探していた。
かくして深緑の光沢のあるニットに黒のパンツを合わせた母は、
ルンルンで出かけて行った。
「着ていく服がない問題」なんてなかったかのように。